このページで取り上げたいのは、2013年に公開されたスタジオジブリ作品「かぐや姫の物語」です。
これは日本最古の物語といわれている「竹取物語」を、現代風な解釈とアレンジを加えたてアニメーションにしたもの。
宮崎駿さんと共にジブリを立ち上げて数多くの名作を世に出してきた、高畑勲さん最後の作品ということは有名ですよね。
この記事の目次
かぐや姫の物語のあらすじ
物語のストーリーは日本人の多くの方が知っているであろう、「竹取物語」あるいは「かぐや姫」となっています。
あらすじをザックリと説明すると、
竹取の翁(おきな)が山で金色に輝く竹を調べると、その中から三寸ほどの小さな女の子を見つけ、妻の媼(おうな)と2人で育てることを決意します。
その後、周囲からは「たけのこ」と呼ばれていた女の子は信じられないスピードで成長するのですが、翁が奇跡的に山ほどの黄金を発見したことを機に、京の都へと住居を移します。
京にて「かぐや姫」と名付けられ、絶世の美女になった娘には多くの名家の男性が求婚するも本人にその気はなく、結婚の条件として無理難題をふっかけて独り身を貫きます。
最終的には帝の求婚すらも断ったかぐや姫は、ある日自分が何者であるかを知ることとなり、月に帰らなければいけないことを翁と媼に告げます。
以上のような感じで、メジャーなおとぎ話としてみなさんも知っている話だと思います。
ですがアニメかぐや姫の物語では、
絵本には描かれていないかぐや姫の幼少時代、なぜ地球に下りてきたのか、月に帰らなければいけない理由などなど・・・。
オリジナルの竹取物語ではほとんど説明されていない詳細までもが、ジブリの鬼才・高畑勲さんの解釈と、性能あふれるクリエイターたちの奮闘によって、美しい映像で届けられているのです。
かぐや姫の物語のここがスゴイ!注目すべき4つのポイント
かぐや姫の物語は上映時間が137分とかなりの長編なのですが、1シーンごとに驚きがあって、他作品では決して見れないような感覚を味わうことができると思います。
そんな中でも私が特に素晴らしいと思ったポイントや、「ここに注目してもらいたい!」という個所をいくつか紹介していきます。
水彩画の絵巻物のようなタッチ・躍動感溢れる作画!
かぐや姫の物語の最大の特徴はなんといっても作画部分にあり、水彩画の1本の絵巻物を見ているかのようなアニメーション!
昔懐かしい感じの絵柄・絵本のような手書き風のタッチなのに、出てくるキャラクターの動きや表情と背景の自然などが躍動感に溢れています。
これは後で制作秘話を読んで知ったことですが、このような作画を実現する為には、恐ろしいほどの膨大な作業量が必要だったようです。
なんでも3秒のシーンに300枚以上の作画が必要だったなどのようことらしいので、2時間ちょいのアニメに対して8年もの制作期間が費やされたのも頷ける話ですね。
その中でも特に強く印象に残っているのが物語中盤あたり、かぐや姫が全力疾走するシーンですね。
屋敷で囲われていたかぐや姫が、美しい十二単を脱ぎ散らかしながら屋敷の廊下を飛び出て疾走する場面ですね。
絶望感と怒りに震えながら、まるで動物かのように野山を駆け抜けるシーンは本当に鳥肌が立ちましたし、他のアニメでは見たことない迫力を味わえました。
美しいだけではない人間味溢れるかぐや姫を描いている!
竹取物語というのは、今から1,000年以上前の平安時代に作られたお話です。
しかも話の大筋やラストの結末も知っているので、「これをアニメとして観て面白いのか?」と当初は思っていました。
ですがさすがは高畑勲さんというか、現代にも通じる題材として完全に仕上がっており、中でも主人公であるかぐや姫の描かれ方は素晴らしいのひとこと!
というのも絵本などで私たちが知っているかぐや姫というのは、人間味を感じることのないあくまでもおとぎ話のキャラクターという感じではないでしょうか?
比較したかったのでまんが日本昔ばなしの「竹取物語」見たのですが、そこでのかぐや姫はどこか宇宙人じみているというか、得体の知れない人物という印象を受けましたね。
その理由というのが、姫の心情の詳細や感情の移り変わりなどがほとんど描かれていないからだと思いした。
それに対して今作のかぐや姫ですが、家族や恋する男性に対する気持ち、美しい自然や虫や動物などと接して生きる喜びや楽しさを噛みしめています。
周囲から「たけのこ」と呼ばれ、田舎で過ごした幼少時代なんかは、本当にキラキラとて心から生を楽しんでいるかぐや姫を見ることができます。
それとは真逆で自分の思いのままにはいかず、悩み苦しんで葛藤しながらも生きていくかぐや姫もまた美しいですね。
とにかくおとぎ話の中には決して見つけることの出来なかった、人間としてのかぐや姫が鮮明に描かれており、それだけでもこの作品を観る価値は大いにあるでしょう。
地井武男の最後の出演作品・迫真の演技で竹取の翁を表現!
アニメは作画やストーリーと同じぐらい、声優の演技や声質というのは大事ですよね。
キャラのイメージと声が合っていなかったり、演技が残念で全体的にはイマイチな出来になってしまう作品って本当に多いですから。
そこでこのかぐや姫の物語ですが、どの声優陣も非常に素晴らしい演技をしています!
しかもこの作品は通常のアフレコではなく、絵がない状態で先に声だけ撮るという「プレスコアリング」という手法で制作されたようです。
絵がないのに演技をするというのは、想像力をフルに働かさなければいけないので難易度がめちゃくちゃ高いようですが、声優陣はみなさん素晴らしい表現をしていました。
たとえば主役のかぐや姫を演じたのは朝倉あきさんという声優の方ですが、女性的で可愛いながらも高貴で凛とした雰囲気は、かぐや姫のイメージにピッタリでしたね。
他にも姫の教育指導をする相模役の高畑淳子さんなんかは、「ドラマとかでも似たような演技していたよな?」と思うぐらい、キャラにとてもマッチしていました。
そんな優秀な声優陣の中でも私がピカイチだと思ったのは、翁役を演じた地井武男さんです!
まだ赤ん坊だったかぐや姫の、一挙手一投足に目を輝かせながら喜んでいるおじいちゃんの様子が素晴らしかったです。
またこの翁というキャラは、愛いするが故に自分の思い描く理想を押し付け、それが結果的にかぐや姫が月に帰ってしまう原因を作ってしまうわけです。
その愚かさや強欲さ、全てを知った時の後悔の念など、翁を通じて地井武男さんの迫真の演技を見ることができます。
そして地井武男さんは公開前の2012年に亡くなっており、かぐや姫の物語が最後の出演作品となります。
プレスコアリングという撮り方だからこそ実現したものですが、名優の名に恥じない素晴らしい最後を飾ったと思います。
何があっても生きるということを深く学べる!
このかぐや姫の物語には、「姫の犯した罪と罰」というキャッチコピーが付けられています。
具体的にこのかぐや姫の罪というのは、「天人にも関わらず地球に憧れてしまったこと」で、罰は「その地球に下して生きる」ということです。
なぜ地球に下すことが罰になるのかですが、そもそもすべてが清浄な月世界からすれば、感情・欲望・彩りに満ちた人間界というのは穢れそのものであり、そこで生きることは罰に他ならないわけです。
そして実際に地球へと下りたかぐや姫は、大自然・野山を駆け巡っていた楽しい幼少時代とは違い、都へ移って姫としての生活を強いられることとなります。
そこで女性らしさ・身分相応の振る舞い・位の高い男性の元へ嫁ぐという価値感など、自分の意思とは裏腹に窮屈な日常が続くのですね。
そしてある出来事によって内側に抱えていたものが爆発し、「帰りたい」と思ってしまいます。
地球で生きるということをかぐや姫自身が罰だと実感したことにより、月から迎えが来てしまうのです。
これで終わってしまうとただの物悲しい昔話ですが、そうではありません。
かぐや姫は一時は「帰りたい」と思ったものの、最後となる瞬間まで「やはり生きたい」と思ったのです。
翁・媼・捨丸などの愛する人や、草木花、鳥虫、獣などで彩り溢れている地球で共に生活をおくりたいと願ったのです。
まるで極楽浄土からやってきたかのような、何の穢れもない月からの使者とのコントラストもあって、ラストシーンは涙なしでは観ることができなかったですね。
人生というのは当然ながら苦しく辛いこともたくさんありますが、それと同じように喜びや楽しさにも満ち溢れています。
単純な私からすれば、かぐや姫が最後まで「生きたい」と願ったこの世の中で、精一杯に生を全うしようと思わせてくれたアニメ作品となりました。
かぐや姫の物語のまとめ
ここまでかぐや姫の物語について、私なりのおすすめポイントなどを紹介してきました。
日本人の多くが内容や結末を知っている超有名な話を、膨大な時間と労力をかけて現代的なアニメーションに仕上げている唯一無二の意欲作です!
当初は上映時間の長さに「途中で中だるみするのかなぁ」と思っていましたがそんなこともなく、始まりから終わりまでその世界観に引き込まれている自分がいましたね。
また世界に名だたるスタジオジブリの立ち上げに大きく関わっている高畑勲さんと、名優・地井武男さん両名の遺作というのも、このかぐや姫の物語が特別である理由でしょう。
「竹取物語なんか知ってる」、「作画が独特過ぎて受け付けない」などの理由で敬遠している人がもしいるなら、ぜひこの機会に1度観てもらいたいアニメ作品ですね。