今回このページでおすすめしたいのは、新海誠さんの「言の葉の庭」というアニメ映画です。
2016年に「君の名は。」で日本映画界の歴史を塗り替える3年前、「ポストジブリ」と一部のファンから囁かれていた程度の認知度だったころの新海誠さんの作品ですね。
この言の葉の庭は上映時間が46分ととても短いアニメ映画ですが、1シーンごとの作りこみは半端なく見ごたえは十分です。
そしてあいかわらずの美麗な作画と情緒的なセリフの数々は、観る人を魅せる数少ない作品ですし私的にもかなり一押しのアニメです。
この記事の目次
言の葉の庭のあらすじ
将来靴職人になることを目標としていながら学生生活にはつまらなさを感じ、雨の日は必ず学校をさぼって庭園でスケッチを描いている15歳高校生の孝雄。
教師をしていたがある出来事が原因となって精神的にダメージを負い、現在は休職中で雨が降ると1人で庭園に行って飲んでいる27歳の雪野。
ある雨の日に2人は庭園のベンチで知り合いとなり、その後も雨が降る午前中だけその庭園で会うという関係が続くようになります。
孝雄は何の素性も分からない雪野に対して思いを寄せるようになり、雪野も高価な靴の専門書をプレゼントするなど、次第にお互いの関係は近くなっていきます。
ですが特に約束をしているわけではないので、梅雨が明けて雨が降らなくると2人は自然と会わなくなってしまうのです。
そんな中、孝雄は今までベールに包まれた雪野の秘密を知ることとなり、その後の物語は大きく動くこととなります。
「雪野にどんな過去があり1人で悩み抱えていたこととは?」「淡く真っすぐな孝雄の思いは通じるのか?」
心を通わせ合いながらも年の差12歳という現実の中、最終的に2人の関係はどうなるのか、一時も目の話すことができない傑作アニメです。
言の葉の庭のここが素晴らしい!個人的に秀逸だと感じるポイント
言の葉の庭は上映時間も短くコンパクトにまとまっているアニメなので、何も考えずに見ても楽しめる作品だと思います。
とはいえ私は生粋の新海誠ファンなので、特におすすめのシーンとか感銘したポイントを紹介して、多くの人と共有したいのです。
もしかすると思い入れが強すぎるがゆえに独断が入っているかもしれませんが、まだ見たことがないという人はぜひ1つの参考にして下さい。
圧倒的な映像美と小さな世界の中の現実的なストーリー
新海誠作品の最大のウリは何といっても、見るものを圧倒してしまうほどの映像美ですよね。
新宿御苑をイメージした木々の奥深い緑、もの悲しくも綺麗な都会の街並み、細かい雨の情景描写など、それがただの映像作品だったとしても見惚れてしまうほど、美しい風景の連続です。
一部のアニメファンの中には、「世界で一番美しいアニメ作品」と言っている人もいるぐらいですが、これは決して言い過ぎではないと思います。
また新海誠作品は、「君の名は。」や「天気の子」などファンタジー要素の高いアニメが多いのですが、今作の言の葉の庭は小さな世界の中で極めて現実的なお話に終始しています。
生徒から中傷を受けて心にダメージを負う先生、子供よりも自分を優先して家庭を放り出す母親、教師であることを知らずに恋心を抱く少年など。
どこにでもいそうな背景を持つキャラクターと現実的なストーリー構成によって、観る者が感情移入しやすくなっていると思います。
今まで嫌いだった雨が少しだけ好きになる!
雨の日というのは朝から憂鬱な気分で心がどんよりとするものですが、言の葉の庭を見てからは少しだけ雨が好きになった気がします。
というのもシーンの大半が雨の日で構成されているのですが、雨が地面に落ちて水が跳ね上がっていたり、池に落ちて美しい波紋を広げていたりなど、本当に1粒ごとに丁寧に描かれているんですね。
また私なんかは雨が降った時の道路のにおいに関して、以前までは不快にしか感じていなかったのですが、
作中にて孝雄が、
「雨は空の匂いを連れて来てくれる」
というセリフを言っています。
監督の新海誠さんは独特の感性と詩的な言葉を作品にちりばめる人で、時としてポエムと揶揄されることもあるのですが、この雨のにおいについては「そういう感じ方もあるんだ」とハッとさせられましたね。
また一口に雨といっても、
普通の小雨、突然降り注いでくる夕立、パラパラと優しく包み込むような天気雨、叩きつけるような勢いの豪雨など様々ですよね。
これら異なる種類の雨について、言の葉の庭ではキャラクターの心の動きに合わせるかのように、それぞれ見事に表現されているんです。
私と同じように雨嫌いの人でも、「雨の日に傘をさして庭園を歩きたいな~」と思うこと間違いなしのアニメだと思いますね。
10代・学生時代のころの淡くて真っすぐな気持ちを思い出す!
孝雄と雪野は年齢が12歳差ということで、これについて「少し気持ち悪い」などといったような感想もあるようです。
確かに社会人となった20代以降の男女ならそれぐらいの年の差も割とある話ですが、10代学生と20代社会人の恋愛というのは、少し「ん?」と思う方がいるのも正直分かります。
そんな賛否両論はあるにせよ、男目線で見ると孝雄の気持ちにはかなり共感する部分がありました。
とにかく10代・学生時代の男子にとって年上の女性というのは、世界の秘密かのごとく神秘的なものなんですよね。
また雨の日の庭園で2人は会ってはいるものの、名前・年齢・職業などの会話はせず、雪野はいつもベンチに座って飲んでばかりという設定ですからね。
孝雄の心情からすれば、知りたいけど聞くこともできないし、深く突っ込んで関係を壊したくないという感じ。
そして高校生の自分には絶対手が届かない自覚はあるけど、どうしても気になるというねw
思春期の頃にそういった経験をしたことがある人なんかは、孝雄に対して「分かる分かる」という気持ちになったと思いますね。
そんな感じで、大人になったことで鈍くなってしまった感情、10代の混じりっけなしの真っすぐな気持ちを思い出させてくれるという点も、言の葉の庭をおすすめしたい理由です。
秦基博の「RAIN」に合わせて描かれている圧巻のラストシーン!
言の葉の庭を語る上で外せないのが、なんといってもラストシーンからエンディングにかける一連の流れです。
心のリハビリをして「靴がなくても自分の足で歩く練習」をしていた雪野が、文字通り靴を履かずにそのまま外に出て、孝雄の元へと走り出します。
そこで孝雄はため込んでいた本音をすべて吐き出し、大人で自分とは違うと思っていた雪野は孝雄の胸の中で大声で泣きだして物語は幕を閉じます。
そしてエンディングでは、その後の2人の様子が細かいカット割りで描かれているのですが、それに合わせて秦基博さんが歌う「RAIN」という曲が流れるのです。
この「RAIN」がまた絶妙にストーリーとマッチしていて、油断するとウルっとしてしまうぐらい感情を揺さぶられるんですよね。
新海誠さんは過去作の秒速5センチメートルでも、山崎まさよしさんの「One more time, One more chance」という曲でラストを閉めるという演出をしています。
これも素晴らしくて多くの方から高評価を得ているのですが、言の葉の庭のエンディングはそれをも凌ぐほどのクオリティだと思いました。
というよりもこのラスト部分を描きたいがために、すべてのストーリーがあったのではないかと思うほど美しい最後となっています。
言の葉の庭のまとめ
以上、新海誠さんの「言の葉の庭」についての魅力やおすすめポイントを取り上げてきました。
先述していますが物語のラスト付近は本当に必見ですし、それから先の2人の関係にいろいろな思いを馳せることのできるアニメーションです。
また時間が短い作品なので空いた時間に繰り返し見ることができますし、その度ごとに細かい部分の発見があるので、1回とはいわずに繰り返し観てもらいたい作品ですね。
私と同じように言の葉の庭によって、「雨に対しての捉え方が今までとは少し変わった」という人はたくさんいると思うので、特に雨嫌いの方には一押しですね。