アニメの考察・感想

夜は短し歩けよ乙女|独創的な世界観・作画と目まぐるしいほどのストーリー展開!

ここで取り上げるのは「夜は短し歩けよ乙女」というアニメ映画で、原作は山本周五郎賞を受賞し、累計売り上げ130万部を超えるベストセラー作品。

作者の森見登美彦さんは、独特な文体で現実と非現実を行き来するような作風が特徴で、熱狂的なファンがいることで有名です。

その原作を天才アニメーターと名高い湯浅政明さんの手によってアニメ化され、第41回日本アカデミー賞では、「最優秀アニメーション映画賞」を受賞しています。

夜は短し歩けよ乙女のあらすじ

好奇心旺盛な黒髪の乙女と、その乙女に恋心を抱いている先輩との恋愛模様を描いています。

ストーリーは交互に変わっていく2人の視点によって、スピーディーにドンドン進んでいきます。

「こうして出逢ったのも、何かのご縁」というキャッチコピーどおり、黒髪の乙女は自由奔放に街を歩き回り、いろんな人と知り合って共に行動します。

その一方である先輩側は、なるべく彼女の目にとまる「ナカメ作戦」と称して乙女の後を追いかけていくのですが、その先々で招かざる出来事が身に降りかかるのです。

またその2人を彩るかのように多数の個性豊かな登場人物が現れ、摩訶不思議なイベントが次々と巻き起っていきます。

もともとの原作は春・夏・秋・冬と、季節ごとに4章に分けて1年間の話が描かれているのですが、アニメではそれらすべてが1夜の出来事。

「足を止めない黒髪の乙女が行き着く先は?」、「先輩の思いは乙女に伝わるのか?」、まさに一時も目を離すことのできないファンタジー恋愛アニメです。

夜は短し歩けよ乙女が他アニメにはない特筆すべきポイントや見どころ

夜は短し歩けよ乙女を紹介するにあたって最初に言っておくこととして、このアニメは人を選ぶと思います。

広く大衆に受ける作品というよりは、より狭いところで強烈に支持されるような作品となっており、口コミでも賛否がハッキリと分かれているんです。

そこでお勧めする側として、私が感じた夜は短し歩けよ乙女の素晴らしい点や特筆すべきポイントを以下で述べていこうと思います。

荒唐無稽なストーリー展開の連続とジェットコースターのようなテンポの早さ!

本編のストーリーはヒロインである黒髪の乙女が、その心の赴くままに動き回りいろんな所に顔を突っ込んでいくというもの。

そしてその黒髪の乙女に思いを寄せる大学の先輩が、自分になんとか振り向いてもらうため、乙女の後を追いかけるという話です。

ここだけ見ればよくある恋愛作品と思いがちですが、この夜は短し歩けよ乙女は全然そんな感じではないんですねw

というより荒唐無稽にもほとがあるぐらい、滅茶苦茶な展開のオンパレードなんです。

たとえば黒髪の乙女が夜の京都の町を散策しているかと思いきや、突然自分が子供の頃に大好きだった絵本を思い出し、何の脈絡もなく古本市に行く。

また大学の学園祭では急に演劇に誘われ、いきなりミュージカルの舞台に上がるなどなど。

カオスと思えるぐらい様々な事が起こり、物語が目まぐるしく変わっていきます。

さらに物語が展開するスピードの早さ・テンポの良さも半端なく、まるでジェットコースターに乗っているかごとく、次々とシーンが変わっていきます。

このスピードは途中でトイレに立ったり、少しボーっとしていたら話についていけないぐらいの早さなんです。

最初は「なぜそうなる?」「今のどういうこと?」「どうしてそう思った?」と数多くの疑問が頭を巡りましたが、観ている途中でそれらが心地よく感じるようになりました。

冒頭でも人を選ぶと述べましたが、私的には過去にないぐらい強烈なインパクトを受けましたし、時間が空いたら定期的に何度も見ているぐらい大好きな1作ですね。

湯浅政明さんによる独創的な作画と世界観!

夜は短し恋せよ乙女は森見登美彦さんが描いた素晴らしい原作に、監督である湯浅政明さんがさらに世界観を大爆発させているアニメ作品です。

中でも一番の特徴は、その独創的な作画や表現力にあると思います。

ラフで平面的なタッチ・曲がった線・ぐにゃりと歪む遠近感・漫画的にディフォルメされた表現など、どれも他に見たことがないものに仕上がっているのです。

さらに眩いばかりのカラフルな色彩・世界観も相まって、まるでエキセントリックなアート作品を観ているかのような感覚になりました。

この湯浅政明さんは一般的な知名度はそこまで高くないですが、日本のアニメーション業界随一の個性派として知る人ぞ知る存在なんですね。

というのも「ちびまる子ちゃん」や「クレヨンしんちゃん」など、国民的なアニメの原画や各話の監督をしていた方なんです。

さらにちびまる子ちゃんでは、あの有名な初代エンディング曲の「おどるポンポコリン」の作画を担当していたようです。

現在のアニメ映画は新海誠さんや押井守さんにみられるような、現実世界を切り取ったようなリアルで写実的な作品がトレンドですよね。

もちろんそれらの監督の作品も個人的に大好きなのですが、そことは真逆をいくようなオリジナルでアートな湯浅政明さんの作品も、本当に素晴らしいですよ。

キラキラした絵が自由に動き回る姿を見ているだけでも、十分楽しむことのできる稀有なアニメだと思いますね。

キャラにピッタリと合っている声優陣の熱演!

声優陣の素晴らしい演技が楽しめるのも、夜は短し歩けよ乙女の見どころの1つだと思ます。

先述しているように、このアニメは独特の世界観やスピーディーなテンポが特徴なのですが、合わせる側の声優陣はさぞや大変だったことが想像できます。

ですがどの声優も、強烈なキャラに負けないぐらいの熱演を見せてくれます。

またキャスティングも光っていて、どのキャラクターも声とイメージがピッタリと合っているんですね。

その中でも特に私が素晴らしいと感じたのは、主役2人を演じた星野源さんと花澤香菜さん、そして総番長役のロバート秋山さんですね。

まず先輩役を演じた星野源さんですが、口コミでここは賛否両論あるようですが、私はすごく良かったと感じましたね。

というのも平凡でうだつが上がらず、クヨクヨした性格である先輩のキャラクターが非常によく出ていたと思います。

物語序盤から途中まではいかにも卑屈そうだったのに、終盤は明らかに声のトーンが変わって、抱えていた思いを吹っ切った先輩役を見事に演じていました。

なんでも星野源さんには、監督の湯浅政明さんが手紙を書いてオファーをしたようですが、個人的には大当たりだったと思います。

そして黒髪の乙女を演じた花澤香菜さんですが、これは素人の私からみても明らかにズバ抜けているのが分かります。

黒髪の乙女という天真爛漫でフワフワ、キュートな女性のイメージに彼女の声はピッタリでしたね。。

さらに乙女は小さいころから武士道をたしなみ、凛とした表情を持ち合わせているのも魅力なのですが、花澤香菜さんの圧倒的な演技力によって、そこも十二分に表現されています。

さまざまな有名作品で主役級を演じ、若手声優の中で人気・実力ともにNo.1といわれている花澤香菜さんですが、その名に恥じない圧巻の演技でしたね。

そして意外だったのが、総番長役を担当したお笑い芸人のロバート秋山さんです。

この総番長はふざけているのか真剣なのかよく分からない、掴みどころのないキャラクターでなので、声だけで演技するのは難しいと思います。

ですが秋山さんは、YouTubeで動画配信している「クリエイターズ・ファイル」の中で、様々な架空の人物を演じており、その演技力や器用さは芸人界随一ではないでしょうか。

今回の総番長役においてもプロ声優顔負けの熱演を見せており、人によっては秋山さんが一番良かったというぐらいです。

なにはともあれ、独創性あふれる世界観・作画にも負けないほど、声優陣たちの活躍ぶりが際立ったアニメだと思いますね。

実在している場所がアニメに出てきて美しい京都が描かれている!

夜は短し歩けよ乙女の舞台となっているのは京都なのですが、作中では実在する場所が数多く登場します。

自分の知っている場所がアニメに出るのは嬉しいですし、それらの場所がどこも華やかで美しく描かれているんです。

以下では夜は短し歩けよ乙女に登場した、実在する京都の場所をいくつか紹介していきます。

【先斗町(ぽんとちょう)】

物語冒頭、黒髪の乙女がパーティ会場を抜け出し、単身で夜の世界に飛びこんだ場所。

「京都」と聞いて多くの人が思い浮かべるような、風情に溢れ趣きのある街並みの繁華街です。

【下鴨神社、糺の森(ただすのもり)】

黒髪の乙女が、「ラ・タ・タ・タム」の絵本を探し歩いた場所。

下鴨神社は世界文化遺産にも登録されており、京都屈指のパワースポットでもある名所です。

作中で開催されていた「下鴨納涼古本まつり」も実在するお祭りで、下鴨神社境内の糺の森(ただすのもり)にて、毎年8月11日~16日に渡って開催されています。

【吉田神社】

一年前の学園祭にて、総番長が一目ぼれをした女性との恋愛成就のために願掛けをしに行った神社。

京都大学のすぐそばにあり、平安京の鎮守社として859年に創建された由緒正しき神社です。

室町時代から行われている2月の節分祭が有名で、毎年多くの観光客が訪れるとのこと。

【京阪錦鯉センター】

冒頭で乙女に絡む、東堂という胡散臭さいキャラが経営していたのが「藤堂錦鯉センター」で、作中では竜巻によって吹き飛ばされてしまいます。

この店のモデルとなったのが大阪の枚方に存在する「京阪錦鯉センター」で、公式ホームページ内にも協力という形でバナーが掲載されています。

実際の京阪錦鯉センターは、錦鯉の展示やファミリーフィッシングなどが楽しめて家族連れを中心に賑わっているようです。

【京都大学】

いわずとしれた日本屈指の名門大学で、原作者である森見登美彦さんの母校とのこと。

アニメでは登場人物たちが通う大学のモデルのようで、「偏屈王」「韋駄天コタツ」など学園祭シーンの舞台にもなっています。

【進々堂 京大北門前】

黒髪の乙女と先輩が、待ち合わせ場所に使った喫茶店。

お店は京都大学北門のすぐ近くにあり、なんと1930年に創業した京都を代表する純喫茶とのこと。

そのレトロモダンな落ち着いた雰囲気は、京都大学生だけでなく地元の多くの方から愛されているようですね。

夜は短し歩けよ乙女では、このような京都のいろんな場所が登場して舞台となるので、実際に足を運んで聖地巡礼するファンも多いようですね。

私の実家も京都にほど近い場所なので、先斗町・下鴨神社・京都大学なんかは行ったことがあり、どこも歴史的な雰囲気を感じる素晴らしい所でしたね。

アニメーションだからこそ実現できた、華やかで美しい京都が表現されているところも、この作品をおすすめする理由です。

夜は短し歩けよ乙女のまとめ

以上、夜は短し歩けよ乙女について私が思うことを自由に述べてきました。

とはいえこの作品は言語化するのが非常に困難というか、形容しがたい魅力のある作品なんですよね。

また文中でも述べていますが、ストーリー・作画・話のテンポなど全てにおいて、無難さや置きに来ている感は一切ありません。

だからこそ、好き嫌いがハッキリと分かれるアニメだと思いいます。

私のように定期的に何回も見るぐらいハマる人もいますが、嫌いな人は二度と見ないどころか、途中で見るのをやめてしまう人もいるかもしれません。

ですがこのアニメが大好きな私からすれば、「先入観なしにとにかく一度見て!」というのが率直な意見です。